- マイクロ法人スキームについては社保削減スキームと節税スキームという2つの観点が含まれる場合が多いです
- 社会保険料削減目的のマイクロ法人とは
- マイクロ法人(個人事業主と二刀流)の社会保険料削減スキームの仕組み(概要)
- 令和8年(2026年)3月一般社団法人を利用した社会保険削減スキームについては規制されました
- マイクロ法人(個人事業主と二刀流)を設立した社会保険削減スキームの規制は難しい面もある
- 税務署の目線、税務調査の観点からマイクロ法人二刀流設立の注意点
- 税務署が問題視する「実態のない法人」とは
- 否認を防ぐ!個人と法人間の「売上の分け方」の鉄則
- 社会保険料削減の「隠れたデメリット」と将来的なリスク
- まとめ|マイクロ法人(個人事業主と二刀流)の売上区分は「実態」と「専門性」で防衛
マイクロ法人スキームについては社保削減スキームと節税スキームという2つの観点が含まれる場合が多いです
弊所のこれまでの実務から得た知見からお伝えしますと、マイクロ法人は主として社会保険料を削減する意図で設立しつつ、節税も狙うような目的で設立されるケースが多いです。弊所の見解は以下です。
合同会社や株式会社のマイクロ法人の社会保険削減スキームに気を取られて、安易に売上分散をした節税スキームに対するリスクに気を付けるべき、と考えます。
社会保険料削減目的のマイクロ法人とは
社会保険料の負担は、事業を営む上で大きな課題の一つです。特に個人事業主として一定以上の所得がある方にとって、社会保険料の削減は切実なテーマであり、その解決策として「マイクロ法人」の設立を検討されるケースが増えています。
マイクロ法人は、実は明確な法的な定義が存在するわけではありません。しかし一般的に言われるマイクロ法人とは、主に社会保険料削減や節税を目的として設立される、小規模な法人の通称、俗称です。
マイクロ法人は個人事業主が法人成りして小さな法人となるという意味で使用されるというよりは、個人事業主を残したまま小さな法人を設立し、当該小さな法人から少額の役員報酬を支給して低額の社会保険で済ます、というスキームで利用される法人を、マイクロ法人と呼ばれます。
しかし、このスキームには税務署が厳しく目を光らせるポイントが存在します。特に、個人事業と法人の間で売上をどのように区分しているかは、税務調査の際に最も注視される点の一つです。
当事務所は、税務調査対応の専門家として、社会保険料削減を目的としたマイクロ法人における売上区分の実態と、それが税務調査でどのように評価されるかを熟知しています。安易な売上分割は、後々大きなリスクとなりかねません。
マイクロ法人(個人事業主と二刀流)の社会保険料削減スキームの仕組み(概要)
マイクロ法人(個人事業主と二刀流)による社会保険料削減スキームの基本的な考え方は、個人事業主としての所得を減らし、代わりに法人からの役員報酬を低額に設定することにあります。
個人事業主の場合、所得税と住民税に加えて、国民健康保険料や国民年金保険料といった社会保険料は、所得全体に対して計算されます。所得が高くなればなるほど、社会保険料の負担も増加する仕組みです。
これに対し、法人を設立し、自身がその法人の役員となることで、社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入します。その時点で、国民健康保険及び国民年金から脱退することになります。社会保険(厚生年金保険・健康保険)は原則として『標準報酬月額』等の制度的ルールに基づき算定されます。
したがって役員報酬を低く設定すればその等級で保険料が低く設定されます。個人事業で得ていた売上の一部を法人に移管し、法人から低額の役員報酬を受け取ることで、個人事業の所得を圧縮する効果を得ながら、社会保険料負担を軽減するというのが、このスキームの概要です。
しかし、この「売上の移管」が税務署から見て実態を伴わないと判断された場合、社会保険料削減どころか、追徴課税や加算税といった重いペナルティを科されるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。
令和8年(2026年)3月一般社団法人を利用した社会保険削減スキームについては規制されました
次に社会保険削減スキームについては以下の2パターンが考えられます。
・一般社団法人を利用した会費の対価として役員報酬を支給するという社会保険削減スキーム
・マイクロ法人(個人事業主と二刀流)を設立した社会保険削減スキーム
2026年3月18日、厚生労働省は「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」と題する通達を発出しました。
この通達では、法人役員の被保険者資格について、書面上の肩書だけでなく、業務実態と報酬の対価性を踏まえて総合判断する運用が改めて明確化されました。
通達が出された経緯
通達発出までの流れを時系列で整理すると、以下のとおりです。
・2025年12月 大阪府議会で維新議員のスキーム利用が告発され報道が拡大
・2026年1月 維新が中間調査結果を公表、兵庫県議ら4人を「国保逃れの脱法的行為」と認定
・2026年3月18日 厚労省が通達を発出、年金機構による勧誘事業者への調査も開始
従来は、役員資格取得届に必要書類が揃っていれば受理される運用でした。しかし今後は「書類が整っていればOK」という形式審査から、「実態があるか」を問う実態審査へと運用が変わります。
一般社団法人を利用した会費の対価として役員報酬を支給するという社会保険削減スキームについては今回完全に規制が入りました。
マイクロ法人(個人事業主と二刀流)を設立した社会保険削減スキームの規制は難しい面もある
令和8年(2026年)3月一般社団法人を利用した社会保険削減スキームの報道を受けて「マイクロ法人(個人事業主と二刀流)社会保険削減すミームもすぐに規制が入る」というような意見もあるようです。ただ弊所の見解では、合同会社や株式会社のマイクロ法人(個人事業主と二刀流)の社会保険削減スキームの規制は難しいと考えます。
・合同会社や株式会社の代表者はむしろ社会保険加入を強制されているという点
・合同会社や株式会社を設立した代表者は、当該法人の売上が上がらずに役員報酬も低額のままで結果的に社会保険が定額のままの人も存在するためその線引きが難しい点
・個人事業主を残しつつ、合同会社や株式会社を設立することすなわち社会保険削除スキームとして規制することも難しい点
弊所は税理士事務所であるため、以下では税務署の目線、税務調査の観点からマイクロ法人二刀流設立の注意点をお伝えします。
税務署の目線、税務調査の観点からマイクロ法人二刀流設立の注意点
個人事業主を残しつつ、合同会社や株式会社を設立することすなわち二刀流経営で、社会保険削除スキームを狙うのであれば、ついでとして節税を狙いたいということにもなるでしょう。
しかし税務署はあくまで、実態のない法人を利用しての不当な所得分散、不当な節税に目を光らせています。
税務署が問題視する「実態のない法人」とは
税務署は『法人名義を仮装して個人で事業を営んでいるか否か』について具体的な判定要目を用いて調査します。実態が認められない法人は否認される可能性があり、国税庁の判定基準に沿った審査が行われます。
「実態のない法人」とは、名目上は法人として存在しているものの、その事業活動が個人事業主と明確に区分されておらず、単に社会保険料や税金の負担を軽減するためだけに設立されたと見なされる法人を指します。このような法人は、税務上の優遇措置を不当に利用していると判断され、その存在自体が否認される可能性があります。
具体的には、以下のような状況は税務署から「実態がない」と疑われる要因となります。
- 事業内容の重複: 個人事業主と法人の事業内容がほとんど同じで、業務の区分が曖昧である。
- 取引先の重複: 個人事業主と法人で同じ取引先から売上を得ている。
- 資産・負債の混同: 個人と法人の資金や資産が明確に区分されておらず、混同している。
特に、売上や業務の実態が個人事業主と法人で明確に区分されていない場合、税務署は「これは実質的に個人の事業であり、法人と分離させる必要がない」という疑念を抱きます。
結果として、法人に計上された売上が個人事業主の所得として認定され直し、社会保険料や税金が再計算されることになりかねません。これは、当初の社会保険料削減の目的が達成できないだけでなく、追徴課税や加算税といった不利益を被る最悪のシナリオです。
否認を防ぐ!個人と法人間の「売上の分け方」の鉄則
マイクロ法人(個人事業主と二刀流)における税務調査の核心は、まさにこの「売上の分け方」にあります。税務署に否認されないためには、単に売上を分割するのではなく、それぞれの事業体に確固たる「実態」と「合理性」を持たせることが不可欠です。ここでは、そのための具体的な鉄則を解説します。
事業目的の明確化:定款と実態の整合性
税務調査において、個人事業主とマイクロ法人(個人事業主と二刀流)の事業目的が明確に区分されていることは、その法人が「実態のある法人」と認められるための重要な第一歩です。
消費税の免税事業者性を念頭に法人を設立する場合、国税庁の基準に照らして定款や事業の実態を整備することが重要です。また特定新規設立法人に関する規定や免税事業者判定の基準に注意してください。同一事業目的での単純分散は、税務署から「消費税逃れ」と見なされ、否認される可能性が高いからです。
例えば、個人事業主が「Webサイト制作」を主たる事業としている場合、マイクロ法人(個人事業主と二刀流)では「Webサイトのコンサル」「セミナー講師行」など、関連性はあるものの、明確に異なる事業目的を定款に記載することが考えられます。定款に記載された事業目的が、実際の事業活動と一致しているかどうかが問われますので、単に形式的に記載するだけでなく、その事業を実際に展開しているという実態が伴っていることが求められます。
定款に事業目的を記載する際は、将来的な事業展開も考慮しつつ、あまりに広範な記述は避け、具体的な内容を明記することが望ましいでしょう。そして、その定款に基づいて、実際に法人としての業務を遂行している証拠を積み重ねていくことが重要です。
「同一事業目的での単純分散」は否認される可能性が高い
前述の通り、個人事業主とマイクロ法人(個人事業主と二刀流)の事業目的が同じであるにもかかわらず、売上だけを単純に二つの事業体に分散させる行為は、税務調査において厳しく指摘される可能性が高いです。
税務署は、このような状況を「実質的に一つの事業を二つの名義で運営しているに過ぎない」と判断します。その背景には、社会保険料や消費税、所得税などの負担を不当に軽減しようとする意図があると推測されるからです。
例えば、個人事業主としてA社からWebサイト制作の依頼を受けていたにもかかわらず、その売上の一部を新設した法人に計上し「Webサイト制作の業務委託費」と分散、分解して受け取るようなケースです。
この場合、税務署は「実態は個人の事業であり、法人と区分して受注する合理的な理由がない」と判断し、法人に計上された売上を個人事業主の所得として合算するよう命じる可能性があります。これにより、社会保険料や税金が再計算され、多額の追徴課税が発生することになります。
また税務署が判断する基準は、形式的な書類の有無だけでなく、「事業としての実態」が伴っているかどうかです。法人として独立した事業活動を行っているか、その事業活動が個人事業主の事業と明確に区別できるか、そしてその区分に合理的な理由があるか、といった点が厳しく問われます。
安易な売上分散は、目先の社会保険料削減というメリットを大きく上回るリスクを伴うことを認識しておく必要があります。
売上区分を明確にするための契約書・請求書・帳簿の整備
個人と法人の売上区分を税務調査で明確に説明するためには、日々の実務において厳格な書類作成と管理が不可欠です。口頭での説明だけでは、税務署を納得させることはできません。客観的な証拠を積み重ねることが、何よりも重要です。
具体的な対策としては、以下の点が挙げられます。
- 独立した契約書の作成: 個人事業主として取引する内容と、法人として取引する内容について、それぞれ独立した契約書を締結してください。契約書には、業務内容、期間、対価、責任範囲などを明確に記載し、個人と法人それぞれの名義で作成することが重要です。特に、同一の取引先から個人と法人の両方で仕事を受ける場合は、契約内容が重複しないように細心の注意を払う必要があります。
- 独立した請求書の発行: 個人事業主としての売上には個人の名義で、法人としての売上には法人の名義で、それぞれ独立した請求書を発行します。請求書には、提供したサービスの内容、数量、単価、合計金額、振込先口座などを明記し、発行日も正確に記載してください。
- 独立した帳簿の作成と管理: 個人事業主の会計帳簿と、法人の会計帳簿は完全に分離して作成・管理します。それぞれの事業体で発生した収入・支出は、それぞれの帳簿に正確に記録し、混同がないように徹底してください。クラウド会計ソフトなどを活用すれば、比較的容易に分離管理が可能です。
- 独立した銀行口座の利用: 個人事業主の事業用口座と、法人の事業用口座は必ず分け、資金の入出金もそれぞれ独立して行うようにしてください。個人と法人の間で資金の移動はなるべく発生させないでください。税務署の目が厳しくなります。
これらの書類を適切に整備し、いつでも税務調査官に提示できるようにしておくことで、「実態のある事業」として認められる可能性が高まります。形式だけでなく、内容も伴った書類作成を心がけましょう。
社会保険料削減の「隠れたデメリット」と将来的なリスク
社会保険料削減を目的としたマイクロ法人の設立は、短期的なメリットがある一方で、見落とされがちな隠れたデメリットや、将来的なリスクも存在します。目先の利益だけでなく、長期的な視点での影響も考慮に入れることが、賢明な経営判断には不可欠です。
将来的な社会保険制度変更のリスク
法人化による社保削減スキームは、現行制度上可能ですが、将来については不透明です。「国保逃れ」という表現が用いられるように、社会保険料の負担を軽減する目的で法人を設立するケースが増加していることは、厚生労働省や関係省庁も認識しています。現状では違法ではないものの、将来的に制度変更が行われる可能性は十分に考えられます。
このような制度変更は、事業計画に大きな影響を与える可能性があります。常に最新の法改正情報を確認し、将来的なリスクを考慮に入れた上で、事業戦略を立てることが求められます。
厚生年金受給額の減少というデメリット
社会保険料削減の大きなメリットとして、厚生年金保険料の負担軽減が挙げられますが、これには「将来の年金受給額の減少」という見落とせないデメリットが伴います。
厚生年金は、支払った保険料の額と期間に応じて、将来受け取れる年金額が決定される仕組みです。役員報酬を低額に設定することで厚生年金保険料を抑えるということは、その分、将来受け取れる年金額も少なくなることを意味します。
現役世代で社会保険料の負担を軽減できたとしても、老後の生活設計において、想定よりも少ない年金しか受け取れないという事態になりかねません。特に、国民年金のみに加入している個人事業主と比較して、厚生年金に加入することで得られるメリットは大きく、病気や障害時の保障も手厚い傾向にあります。このメリットを最大限に享受できないことは、長期的な視点で見れば大きな損失となる可能性もあります。
社会保険料削減の短期的なメリットと、老後の生活設計に与える長期的な影響を比較検討し、バランスの取れた判断をすることが重要です。年金以外の資産形成や、私的年金制度の活用など、多角的な視点から老後資金の準備を検討する必要があるでしょう。
まとめ|マイクロ法人(個人事業主と二刀流)の売上区分は「実態」と「専門性」で防衛
社会保険料削減を目的としたマイクロ法人(個人事業主と二刀流)の設立は、多くの経営者にとって魅力的な選択肢となり得ます。しかし、その運用には「税務調査で否認されないか」という常に付きまとう不安が伴います。特に、個人事業主と法人の間の「売上の分け方」は、税務署が最も厳しくチェックするポイントであり、安易な判断は大きなリスクを招きかねません。
税務調査で否認を防ぐためには、単なる形式的な売上分割ではなく、それぞれの事業体に明確な「実態」と「合理性」を持たせることが不可欠です。事業目的の明確化、定款と実態の整合性、そして何よりも、独立した事業活動を示す客観的な証拠(契約書、請求書、帳簿、資金管理など)の整備が求められます。
「同一事業目的での単純分散は否認される可能性が高い」という税務署の視点を理解し、それにどう対応するかが、マイクロ法人(個人事業主と二刀流)成功の鍵を握ります。また、社会保険料削減のメリットだけでなく、将来的な制度変更のリスクや、厚生年金受給額の減少といった隠れたデメリットも認識し、長期的な視点での事業運営を心がけるべきです。
税務調査の現場は、常に変化し、その判断基準は個々の事案によって異なります。不安を感じたとき、あるいは具体的な対策を講じたいとお考えの際は、税務調査対応の専門家へご相談ください。当事務所は、納税者の方が税務調査に適切に対応できるよう支援いたします。過去の事情を踏まえた上で、事実確認と法令に基づく助言を継続的に行ってまいります。