令和4年以降の漫画家・同人作家・イラストクリエーターが副業として活動している場合の取り扱い

【結論】令和4年以降、記帳・帳簿保存は創作活動を「事業所得」として申告する際の重要な判断材料です

副業で漫画やイラストを制作されているクリエイターの皆様の中には、「自分の活動は事業と呼べるのだろうか」「雑所得として申告するしかないのでは」と悩まれている方が少なくないでしょう。特に、令和4年の所得税基本通達の改正に関する情報に触れ、混乱されている方もいらっしゃるかもしれません。

まず結論から申し上げます。令和4年以降、記帳を行い、その帳簿や書類を保存している場合、創作活動を「事業所得」として申告できる可能性は高まります。ただし、収入規模や営利性、継続性などを踏まえた個別判断が必要です。

これまで事業所得と雑所得の区分は、私たち税理士にとっても判断が難しいケースが散見される悩ましい問題でした。税理士事務所である弊所としても、長らく事業規模や独立性、時間的拘束の有無などが総合的に判断される中で、その線引きに頭を悩ませてきました。しかし、令和4年の通達改正により、事業所得かどうかは社会通念上事業と称する程度で行っているかを前提に、記帳と帳簿書類の保存の有無も重要な判断材料になることが明確化されました。これは、収入金額だけで一律に判断されるのではなく、記帳・帳簿保存の状況や活動実態を踏まえて、創作活動を事業所得として整理できる余地があることを意味します。

具体的には、以下の基準が設けられました。

  • 記帳・帳簿書類の保存がある場合:原則として「事業所得」に区分されます。ただし、例外的に雑所得に該当するケースもあります。
  • 記帳・帳簿書類の保存がない場合:収入が300万円を超えていても、事業と認められる事実があれば「事業所得」になり得ますが、基本的には「雑所得」と判断される可能性が高まります。収入が300万円以下の場合は、原則として「雑所得」です。

事業所得として申告すれば、青色申告による特別控除や、赤字を給与所得と相殺できる損益通算など、多くの税制上のメリットを享受できる可能性があります。もしあなたがこれまで「副業だから」という理由で雑所得として申告してきたのであれば、この記事を機に、ご自身の申告方法を見直すことを強くお勧めします。まずはとにかく青色申告承認申請書を提出し、青色申告特別控除10万円を受ける可能性を得ましょう。「記帳・帳簿保存」とは難しく考えず、「領収書やレシートを集めて経費を算出し、売上も集計すること」と捉えていただければ、状況によっては、雑所得として申告する場合と比べて税務上有利に扱える可能性があります。

一方で、「領収書やレシートを集めて経費を算出し、売上も集計すること」自体に抵抗があるクリエイターの方もいらっしゃるかもしれません。また、漫画家・同人作家・イラストレーターさんの所得には、平均課税の適用、平均課税の適用による更正の請求、源泉徴収税額の計上漏れ修正による更正の請求など、税理士へ依頼することでメリットを得られる可能性のある論点が含まれています。近年は副業に関する申告内容が確認される可能性もあるため、税務調査のリスクも考慮すると、一度私たちのような専門家にご相談いただくことも有効な選択肢です。

混乱を招いた「300万円の壁」の誤解を解く

令和4年の改正を巡って、特に多くのクリエイターを混乱させたのが「収入300万円」という数字ではないでしょうか。「副業収入が300万円以下だと、強制的に雑所得になる」といった情報が広まり、不安を感じた方も多いと聞きます。

確かに、当初国税庁が公表した改正案では、収入金額を基準に事業所得と雑所得を区分するような内容が含まれていました。しかし、この案に対して多くの意見(パブリックコメント)が寄せられた結果、最終的な通達では、金額による一律の線引きは行われないことになりました。

重要なのは、「収入が300万円以下だから事業所得にできない」という誤解を解くことです。現在の正式な取り扱いでは、記帳と帳簿保存を行っている場合、事業所得として認められる方向で判断される場合が多い一方、収入規模や営利性などによっては個別判断が必要になります。この点を正しく理解することが、適切な確定申告への第一歩となります。

カギは「記帳・帳簿保存」。具体的に何をすればいい?

では、事業所得として整理するうえで重要な判断材料となる「記帳・帳簿保存」とは、具体的に何をすればよいのでしょうか。難しく考える必要はありません。まずは、以下の2つのステップから始めてみてください。

  1. 売上と経費に関する書類をすべて保管する
    仕事の依頼元からの支払調書、売上が振り込まれた通帳のコピー、画材や資料代のレシート、仕事で利用した交通費の領収書、請求書や納品書の控えなど、創作活動に関わるお金の動きがわかる書類は、すべてファイルなどにまとめて保管する習慣をつけましょう。
  2. それらの内容を記録する
    保管した書類をもとに、「いつ」「どこで」「何に」「いくら使ったか」あるいは「いつ」「誰から」「いくら入金があったか」を記録していきます。市販の会計ソフトを利用するのが最も効率的ですが、まずはExcelやノートに日付順で書き出すことから始めても全く問題ありません。

完璧な帳簿を最初から目指す必要はありません。大切なのは、ご自身の事業の収支を客観的に証明できる記録を作成し、その根拠となる書類を保存する、という意思と行動です。まずは「領収書やレシートを集めて経費を算出し、売上も集計する」ことから始めてみましょう。これだけでも、雑所得で申告するのに比べて大きな前進です。

事業所得で申告するメリットと、あなたが向き合うべきこと

事業所得への切り替えを具体的に検討するために、そのメリットと、一方で向き合うべき事務的な手間について整理してみましょう。ご自身の創作活動の状況と照らし合わせ、どちらが望ましいかを判断する材料にしてください。

メリット1:青色申告で最大65万円の控除が受けられる

事業所得で申告する最大のメリットが「青色申告」を選択できることです。青色申告を行うことで、所得金額から最大65万円(※要件あり)を差し引ける「青色申告特別控除」が適用されます。

これは、経費とは別枠で認められる控除であり、非常に大きな節税効果があります。例えば、所得税・住民税の合計税率が20%の方であれば、65万円の控除を受けることで約13万円も手取りが増える計算になります。このメリットを享受するためには、「青色申告承認申請書」を期限までに税務署へ提出したうえで、複式簿記により記帳し、貸借対照表・損益計算書等を添付して期限内に申告し、さらにe-Taxによる提出または優良な電子帳簿保存などの要件を満たす必要があります。

メリット2:赤字を給与所得と合算して税金を減らせる(損益通算)

特に副業で活動されているクリエイターにとって、見逃せないのが「損益通算」という制度です。

例えば、高価なパソコンや液晶タブレットを購入したり、個展の開催費用がかさんだりして、創作活動の収支が年間で赤字になったとします。この赤字を、本業の会社から得ている給与所得から差し引くことができるのです。その結果、給与所得全体が圧縮され、給与から天引き(源泉徴収)されていた所得税の一部が還付される可能性があります。

これは雑所得では認められない、事業所得ならではの大きなメリットです。活動初期で投資がかさむ時期には、非常に有効な制度と言えるでしょう。

向き合うべきこと:帳簿付けの手間と確定申告

もちろん、メリットだけではありません。事業所得として、特に青色申告の特典を最大限に活用するためには、日々の取引を複式簿記で記録し、確定申告の際には「貸借対照表」や「損益計算書」といった決算書類を作成・提出する義務が生じます。

「簿記の知識なんてないし、難しそう…」と感じるかもしれません。しかし、近年は簿記の知識がなくても質問に答えていくだけで書類が作成できる会計ソフトが多数存在します。これらのツールを活用すれば、ご自身で申告を完結させることも十分に可能です。

また、創作活動に集中したい、あるいは事務作業がどうしても苦手だという方は、最初から税理士に相談するのも賢明な選択です。手間という課題は、ツールや専門家の力を借りることで乗り越えられると捉えてください。

事業所得への第一歩、今すぐあなたがやるべきこと

これまで雑所得で申告してきた方が、次回の確定申告から事業所得へ切り替えるために、今から準備すべき具体的なステップをご紹介します。「何から手をつければいいか分からない」という方は、ぜひこの手順に沿って行動を開始してください。

1. 税務署に「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する

事業所得として申告するための最初の行政手続きが、これら2つの書類の提出です。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届):事業を開始した日から1ヶ月以内に提出するのが原則です。
  • 所得税の青色申告承認申請書:青色申告をしたい年の3月15日まで(その年の1月16日以降に開業した場合は、事業開始日から2ヶ月以内)に提出する必要があります。

特に「青色申告承認申請書」は提出期限が非常に重要です。この期限を過ぎてしまうと、その年は青色申告の特典が受けられなくなってしまいます。例えば、2026年分の所得から青色申告を始めたい既存事業者の場合、原則として2026年3月16日までに申請書を提出しておく必要がありました。なお、2026年1月16日以後に新たに業務を開始した場合は、業務開始日から2か月以内が提出期限です。

2. 専門家(税理士)に相談して、最適な申告方法を検討する

手続きや帳簿付けに少しでも不安を感じたら、無理に一人で解決しようとせず、専門家である税理士に相談することをお勧めします。

私たち税理士は、単に申告書を作成するだけではありません。例えば、漫画家やイラストレーターのように年によって収入の変動が大きい方に対しては、「平均課税」という特殊な税額計算を適用して税負担を軽減できる可能性があります。これは雑所得であっても適用できるケースがありますが、専門的な判断が必要です。

また、近年は副業に対する税務署の関心も高まっており、税務調査のリスクも無視できません。私たち田中信男税理士事務所は、税務調査専門税理士として多くの納税者様を支援しており、専門家が関与することで、申告内容の信頼性が高まり、調査のリスクを低減させる効果も期待できます。

これまで雑所得で申告していたけれど、本当は事業所得にできたのではないか、平均課税の適用は受けられないか、など、ご自身の状況を一度、専門家の視点から見直してみませんか。当事務所では、漫画家・同人作家・イラストレーターの皆様からのご相談を数多くお受けしております。あなたの創作活動が正しく評価され、最適な形で申告できるよう、全力でサポートいたします。

漫画家・同人作家・イラストレーター向けの税務相談

この記事の監修者

税理士 田中亨
税理士 田中亨税務調査専門税理士
プロフィール
近畿税理士会上京支部
税理士登録番号128205
税務調査案件を安価で全国対応している京都の税理士
税務調査前の自主申告期限を守るため土日祝日深夜対応を行う
これまで多くの税務調査案件を早期終了に導いてきた

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